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2018.04.04 update

Story of うみとそらのたまご舎

山を車で少し登った先に鶏舎が見えてきた。

木で作られた建物は周囲の豊かな自然に溶け込んでいるように立っている。

ごく自然にそこにあると言った表現が当てはまるかもしれない。

小林さんは道に面した橋の上に立って出迎えてくれた。川には澄んだ水がサラサラと流れている。

空を見上げると抜けるような青空が広がっている。

『どうぞ、今日はこの後用事があるから鶏舎から鶏を出してないんだけど』そうつぶやきながら小林大亮さんは僕たちを鶏舎に案内してくれた。

鶏舎の入り口まで来ると遠くに海が見える。

『うみとそらのたまご舎…』僕達は胸が高鳴るのを感じながら坂を登った。

鶏舎に入ると嫌な匂いは全くしない、そして床は布団の上を歩いているようにフカフカだ。

小林さんは優しい声で訥々と語り始めた。

平飼いは無謀だよ』優しい声と内容のギャップに少し驚き僕たちは話に聴き入った。

『全然(収量が)計算できないし、環境に左右されてしまう

それから僕たち消費者の知らない“たまごの話”は続いた。

『そもそも養鶏で儲けてやろうとは最初から思っていない。この土地をどうやって維持するか、もう崩れたりしているところに鳥小屋を建てて、そしたら鳥小屋を建てるのに整地するから、崩れたところもだんだん勝手に埋まっていく。自分で石垣も築きなおすけど。それで鶏っていう動きのある動物がいたり、周りには静かな木があったり、野菜があったり、草があったり。鶏を飼うって事が風景の一つみたいな。そういう位置づけで始めてる。そもそもちょっとでも卵を多く産ませて儲けようっていう腹がない。それが養鶏をガツンとやりたい人にとっては物足りないかもしれない。(中略)景色の一部っていう…鶏小屋も。

外を見るとバイクに乗った警察官が鶏舎の前で停まってこちらを見ている。

『いや〜何だかすごいなと思って見てたんだよ』そう言い残して去って行った。

丁度僕たちもそう思っていたところです。

産まれたての卵はしっとりと濡れていて湯気が立っていた。

なんだかじんわりと感動が込み上げる。

産まれたばかりの時って、ワックス上の濡れた状態で生まれてくる。クチクラ層っていうんだけど、そのワックスが付いてることによって自然な防衛。雑菌が入らないように。だから本当はこれを洗ったりしないほうがいい。このままお客さんに配るほうが絶対に持つ。でも今の大きなシステムでやる養鶏って、ちょっとくらい汚れてても許さないっていうか。

現代の大規模な養鶏との違いはとても興味深く話は尽きなかった。

ひとつの小屋にいっぱい詰め込むと、糞の相対量がバランスが崩れるから、臭くなりやすい。だから、坪5-6羽くらい。だいたいどこの鶏舎も同じ。比較するのはどうかと思うけど、ブロイラーって肉用鶏はだいたい一坪に60羽くらい。

小林さんは餌を用意しながら話を続けた。

『(餌は)自分で作る、全部。だいたいこの島じゅうなんだけど、おからとか、パン粉のカスとか、米ぬか、小米をもらってきて自分で攪拌機で混ぜて、3日くらい袋に入れて置いとくの。そしたら発酵するから、発酵したものを随時あげる。

小屋の中はバナナのような甘い香りに包まれた。僕のお腹が空いていたのか、いい匂いのする餌は本当に美味しそうに思えた。

『ひとつ思ったのは、自分がお米を作らないと、いつお米が取れて、お米でもいろいろ米ぬかとか籾殻とか種類あるじゃん。そういうのも分からんし、自分で米作らんとダメだなと思って。ほぼ2年目から始めた。小米もらうために農家と対等に話ができないとダメだなと思って。田んぼはそれがきっかけ。自分も最初は分からんかったけど、「あ、精米したら米ぬかが出る」「もみすりしたら籾殻が出る」「脱穀したら藁が出る」と。そういうことがやってみて初めて分かる。それまでは籾殻って言われてもピンとこんし、米ぬかって言われてもピンとこんし。餌の状態としては知ってるけど、いつの過程でこれが出るんだろうとか。(中略)「あ、小米って今の時期しか出ないんだ」っていうのも分かったし、そしたら、その時期にしか出ないこ小米をどういう風にストックするかっていうのも。そういう積み重ね。』

『うちは賞味300羽飼ってて、増やしたくない理由は、それ以上飼うともっと餌を遠くから運んだり、卵売れない場合にもっと遠くに売りに行かなきゃ行けなくなる。それをもっともっとってやるとそれしかできなくなる。あくまで、養鶏は景色に溶け込むくらいで。餌取りに行くのも大変だけど、そういうとこに時間を使ってしまうと、畑とか田んぼに時間が回せなくなる。手近なところで手近なお客さんに売るって言う、そのほうが自分たちは合っている』

川べりに目をやると妻のりかさんが鶏を連れて歩いている。“養鶏は景色に溶け込むくらいで”その言葉がストンと腹に落ちた。

 

 

 

 

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